御蔵島の周りに棲むイルカを知るための、基礎となる「個体識別調査」は、1994年から行われてきました。ここでは、個体識別調査についてご紹介します!

 

実際の調査についてもっと詳しい情報が知りたい方は『はじめてのフィールドワーク ③海の哺乳類編』の第3章にて榊原さんが解説してくださっています!ぜひチェックしてみてください.

個体識別調査の目的

島周りに生息するイルカを1頭1頭見分け、記録することで、イルカの生態や生活史の解明や、本個体群の保全に役立てようとしています。

 

得られた成果は、一般向けの冊子・御蔵島での座談会などで、島民・御蔵島を訪れる観光客・イルカに興味を持つ一般の皆様に広く紹介し、イルカ・動物・自然環境についての理解・興味を深めることに役立てます。

また、学術的成果として学会・科学雑誌にて発表し、イルカの新たな知見を増やすことに貢献します。

 

 

調査地(御蔵島)

調査地である御蔵島は、東京から南へ220km、伊豆諸島のほぼ中央に位置する、面積19.6km2、外周16.4km、最高標高地(御山)851m、円錐形の休火山島です。海岸線は波によって削られた球形の石で構成され、海底は玉石、海藻および砂で構成されています。

 

イルカの個体識別調査は、通常イルカウォッチングが行われている海域と同じ、海岸線から約300m以内、水深2-45mの海域にて行います。

 

島の基本情報、島への交通手段は、御蔵島観光協会のホームページをご覧ください。

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調査期間

毎年6月頃から10月頃まで、海に出て調査を行っています。機会があれば、冬季の調査も行います。

 

観察対象

御蔵島周辺海域に生息するイルカは、ミナミハンドウイルカ(Tursiops aduncus)です。

ミナミハンドウイルカの主な外部形態の特徴は、以下の通りです。

・ハンドウイルカに比べて吻が長い

・三角形に近い背ビレを持つ

・成長と共に腹部に斑点が現れる

2011年現在、約110頭のイルカが島周りに生息しています。

体の大きさや腹部の斑点の有無、行動などからオトナ(Adult)、ワカモノ(Sub-adult)、コドモ(Juvenile)、当歳児(Neonate)の4つの成長段階に分け、生殖孔の確認により性別を判定しています。

また、オトナメスが全観察中のうち、50%以上で同一のコドモまたは当歳児と一緒に見られた場合は、このペアを母子と定義しています。 

オトナオス
オトナオス

オトナオス 

全体的に黒っぽく、たくさんの傷がある個体が多い

腹部に多数の斑点があります

横から見た時、生殖エリアがふた山に見えます


オトナメスとコドモ
オトナメスとコドモ

オトナメス

全体的に黒っぽい

腹部に斑点が多い

御蔵島では、出産が確認された個体は、ワカメスからオトナメスになります

 

コドモ(Juvenile, 1歳児以上)

腹部に斑点がなく、傷も少ない

体長はオトナのの~2/3程度

体色は明るい灰色

母親と一緒にいることが多い

 

当歳児(Neonate, 0歳)

腹部に斑点がない

体長はオトナの~1/2程度

生まれて間もない場合、体側に胎児しわと呼ばれる縦の線が何本か残っている(お腹にいた時に体を曲げていたため)

母親と一緒にいることが多い

 

 


ワカオス
ワカオス

ワカオス

離乳していて、母親とは一緒いませんが、繁殖に参加する前の若い個体(御蔵の平均離乳年齢は3.4歳)

体の太さがオトナより細いが、体長はオトナと同じくらい

腹部には少し斑点がある個体もいる

ワカオス数頭~十数頭が、疑似交尾行動を行うことがあります(御蔵島では「からみあい」と呼ばれます)


ワカメス
ワカメス

ワカメス

離乳していて、母親とは一緒にいませんが、繁殖に参加する前の若い個体(御蔵の平均離乳年齢は3.4歳)

体の太さがオトナより細いが、体長はオトナと同じくらい

コドモ個体と一緒に泳ぐことがあります(御蔵島では、「ベビーシッティング」と呼ばれます)


調査方法

調査船(全長約7mの動力付小型船)にて海岸線に沿ってイルカの群れを探索し、群れを発見後、撮影者がシュノーケリングをしながら、防水ケースに入れたデジタルビデオカメラを用いて、イルカを撮影します。

※基本的に、一般のお客様が参加するウォッチングと同じ流れです。ウォッチングの際の注意点などは、御蔵島観光協会の「海へ」のページにまとめられていますので、そちらもご参照ください。

 

船上にて、群れの頭数や行動状態・発見位置(GPSによる記録)・発見時刻・海況を記録します。

 

群れの状態は、以下の5つに分類しています。

  「移動」群れの個体が同じ方向に移動している状態

  「休息」移動速度が遅く水底近く泳いでいる状態

  「社会行動」頻繁な接触を伴う性的行動をしている状態

  「詮索」人のまわりを回ったり人へクリックスを発したりする状態

  「ミリング」群れ内の個体がバラバラの方向を向いて群れとしての移動がない状態

 

観察者の存在によるかく乱を最小限にするため、スキューバ・タンクを用いたり、餌付けしたりすることはありません。

 

ウォッチング船の船長のご厚意により、調査員がウォッチング船に乗せていただいて調査を行うことがあります。その際は、お客様の邪魔にならないように気をつけています。ウォッチング船で調査員を見かけたら、ぜひ声をかけてみてくださいね。

 

イルカのヒレの欠けやダルマザメによる食痕など、自然にできた傷(Natural mark)があります。撮影をした後ビデオを再生し、それを手がかりにして、1頭1頭を識別し、個体番号と名前をつけていきます。そして、そのイルカがいつ・どこで・誰が・誰と・どのような状態でいたかを記録していきます。

 

野外調査の季節が終わった後、御蔵島のイルカが何頭いてどんな性別・年齢構成なのか、赤ちゃんは何頭生まれているか、御蔵島のイルカの個体群の情報をまとめていきます。 

調査結果

1994年より続けられてきた個体識別調査の結果、様々なことが明らかになってきました。

それらの結果は、書籍や論文にまとめられていますので、

詳しくは、出 版 物をご覧ください。

 

 

その他の調査について

御蔵島では、個体識別調査のほかにも、国内外の大学や大学院の学生や研究者によって、生態・音響・行動・生理・遺伝分析など、様々なテーマで研究が行われています。

詳しくは出 版 物をご覧ください。